
いてもたってもいられず、公開初日に『すずめの戸締まり』を観てきました。
新海誠監督の作品は、監督自ら声優を務めた『彼女と彼女の猫』から全作品観ています。
あの映像美による情景描写、声優さんのマッチ具合、映像に符合する音楽が素晴らしいんです。
さて前置きはこの辺にして感想に入っていきますが、注意点があります。
ここからは盛大にネタバレを含みます。
映画をまだ観ていない方は、ぜひ一度観てからご覧ください。
決して観て後悔しない映画になっています。
「最高傑作」のあおりは伊達じゃない
まず観てきて思ったのは、本当に新海誠監督の「最高傑作」だということです。
安心の映像美、シリアスの重さ、コミカルの軽さ、音楽の盛大ながらも馴染んでいる様、どれもがきれいに融合している作品でした。
一見の価値はあると自信をもって人に勧められる映画でした。
以下思いついた感想をそのまま書いていきます。
根底のテーマは「3.11」
監督がインタビューで応えていますが、この作品の根底にあるテーマは「3.11東日本大震災」です。
劇中では12年前のできごととして描かれていました。2022年から数えると11年前なので、劇中は2023年ということになるのでしょう。
映画を観た方の中には、東日本大震災は教科書のできごとという方も多いと思います。
「忘れてはならないことを思い出させる」ような機能もこの映画は果たしているのです。
映画のポスターには「行ってきます。」という言葉が載っています。
そして映画観で壁紙をもらうために必要なキーワードは「おかえり」です。
観る前はそこまでの意味がある言葉だと思いませんでしたが、観終わったあとは、これ以上に劇中で重みを持つ言葉もないと思いました。
厄災を放つ「ミミズ」を閉じ込める扉を閉めるには、そこにいた人々の声を聞くことが必要でした。
各地を旅しながら「後ろ戸」をしめていく鈴芽ですが、最後の舞台となる東北では、その声にたくさんの「行ってきます。」が含まれています。
東日本大震災を思い返せば、
「行ってきます。」と言って「ただいま。」が言えなかった人
「行ってきます。」と言われて「おかえり。」が言えなかった人
がたくさんいたはずです。
主人公の鈴芽は、東日本大震災(劇中で明言はされていません)で母親を亡くしています。
鈴芽の母親が前者、鈴芽が後者ということになるでしょう。
私たちは普段何気なく「行ってきます。」「いってらっしゃい。」「おかえり。」を言っています。
でもそれが当たり前でなくなった人が大勢いたことを気づかせてくれました。
亡くなった方を悼みながら、自分の生きていることの幸福を感じることができるシーンだと思います。
このクライマックスシーンは思わず涙がこぼれました。
タイトルの「戸締まり」の意味
タイトルの「戸締まり」の意味は、監督のインタビューを読むと納得でした。
『何かを始めるときは地鎮祭のような祈とうの儀式をするけれど、何かが終わっていくときはなぜ何もやらないんだろう、ということだったんです。人にはお葬式があるけれど、土地や街にはない。じゃあそれらを鎮めて祈ることで悼む物語はどうだろうという考えが、ここ何年かずっと、自分の中にあったんです。』
入場者プレゼントの冊子より
確かに人間には生まれたときも亡くなるときも儀式がありますが、終わりの儀式は、土地やまして街にはありませんよね。
このインタビューを読んで、もう一つはっきりとした終わりと、その儀式がないものに気づきました。
それは私たちの「気持ち」です。
「気持ちに整理をつける」という言葉がありますが、その瞬間にすっぱり終わらせられるものではないと思うんです。
実際は時間が経って、いつのまにかその気持ちに整理がついていたとか忘れていたとかになるでしょう。
だから主人公の鈴芽も、母親への気持ちを鎮められずにいて、この物語は鈴芽の母に対しての気持ちを「戸締まり」する話でもあったのだろうと思います。
シリアスとコメディのバランス
扱っているテーマと主人公の境遇が相まって、シリアスの重さはこれまでの作品で一番重いかもしれません。
シリアスだけだと重苦しくなるのですが、コメディ要素がうまく物語を盛り立ててくれます。
おかげて丸2時間という時間を短く感じられた作品でした。
椅子の躍動感


メインの登場人物である「宗像草太」が「すずめの椅子」になって躍動します。
なんでしょうね、あの無機物なのにかわいい感じは。
しかもアクションシーンまでこなすんですから。
こんな椅子これまでいなかったでしょう。
お気に入りは椅子の足音。
私には「パカラッパカラッパカラッ」と聞こえたんです。
まるで「テーテテーテテーテテー♪」でお馴染みの曲に合わせて海岸を駆けるあの将軍様が乗る馬のようです。
ジェットコースターを追い回すシーンは、真剣なシーンなのですが、思わずにやついてしましました。
個性的な男性キャラ


今作は女性キャラの方が多いんです。
鈴芽が女性主人公で、いろいろな女性を見て自分を成長させていくストーリーになっているからだと思います。
その分、男性キャラが少ないのですが、それぞれがしっかり立っています。
私のお気に入りは芹澤で、見た目はチャラいが友達思いのとても優しい人物です。
環が「意外といい教師になるかもね。」と言っていましたが、おおらかさと面倒見の良さは確かに教師向きだと思います。
彼がいなかったら、鈴芽と環の東北への旅はひたすら重苦しくなったと思います。
岡部も環への片思いがあふれていて、まっすぐで一生懸命な愛されキャラですね。
安心の映像美
新海誠監督の代名詞と言えば、圧倒的な映像美です。
監督の作品は、現代を舞台にしているものが多く、「現実を現実以上にきれいに見せる」という賛辞がぴったりです。
今回もその映像美は健在。
今作はファンタジーの壮大さは非日常感たっぷりに、現実は現実味を帯びながらも美しく描かれています。
けっこうタイムラプスのような描き方も多かったと思います。
お気に入りは雲と雲に当たるライティングですね。
映像にマッチしたBGM
音楽はREDWINGS、陣内一真、十明とそろい踏みです。
そのときどきの映像とマッチした音楽が物語を盛り上げます。
正直変に目立つ場所がなく、違和感がなさ過ぎて大きな印象がありません。
2回目観に行ったときに、しっかり聞いてみます。
サダイジン・ウダイジンの違和感
あんまり長くなってもいけないので、この見出しを最後にします。
サダイジン・ウダイジンの行動には違和感があって、どうしても自分の中で飲み込めていません。

予告を見ただけだと、この猫「Q○じゃん」と思ってました。
そんな雰囲気ありませんか。白いし。
ダイジンは、「ミミズ」を押さえ込む要石だったわけですが、なぜ草太に呪いをかける必要があったのでしょう。
「すずめ すき おまえ じゃま」という言葉の後に呪いはかけられる訳ですが、ただの好き嫌いの気まぐれだったのでしょうか。
途中までは、痩せ細っていた=要石としての力がなくなった、と思っていたのですが、最後は要石に戻ります。
「ん~~なんでだったんだ?」と疑問は膨らむばかりです。
仮定の話をするなら、要石の力は本当に小さくなっていて、すずめからの「ありがとう」で力が戻った、とかそんな感じなのかもしれません。
公式サイトに画像がないので、見た目は出せませんが、ウダイジンも終盤出てきます。
こちらは大きな黒猫で、サダイジンはケンカでわからされます。
このウダイジンは、環に取り憑き、暗い本音を鈴芽にぶつけさせる行動をとりました。
鈴芽と環はEDで心から笑える関係になっているので結果オーライですが、観ているときは胸がきゅっと締め付けらる思いでした。
でもなぜ環に取り憑いて、そんなことを言わせたのかは?のままです。
ダイジン2人(?)には謎が多い。
草太の言葉を借りるなら、「気まぐれは神様の本質」なのでしょうか。
おわりに
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
みなさんの『すずめの戸締まり』に対しての感想もぜひ聞きたいです。
もっと『すずめの戸締まり』が盛り上がっていくといいですね!
それではまたどこかでお会いしましょう。